上海ドリーム”を追い求め、中国で会社を興した女性起業家の素顔
「枠を設けず、私を育ててくれた母親に感謝しています」
そう語るのは、2005年5月に中国・上海でアクシス・クリエーション上海を立ち上げた女性起業家、田中延枝氏だ。同社のCEOを務める田中氏はオーストラリアへ留学したあと、成長国でのビジネスを志して中国へ渡る。そこで中国人の女性パートナーとの運命的な出会いを経て、念願の起業を果たした。
小さな枠(日本)を飛び出し、中国で会社を立ち上げた田中氏は、私たちに、どのようなメッセージを寝下かけているのだろうか。田中氏に、中国での起業にいたる経緯や中国ビジネスのポイント、そして日本人に向けたメッセージなどをうかがった。
工業デザインを学び、起業を決意。
ビジネスフィールドとして選んだのは中国
―― なぜ中国でビジネスをしようと考えられたのでしょうか?
田中: 本田宗一郎氏を敬愛していましたので、まず目指したのは工業デザイナーでした。しかし日本を支えてきた製造業はすでに成熟し、高度経済成長も終わりが見えていたので、今後成長が見込める国や産業で働きたいと考え中国での起業を志しました。そし将来どこへ行っても通じる語学力とデザインスキルやセンスを学ぶため、移民の国オーストラリアのメルポルン工科大学へ留学したのです。工業デザイン学科を卒業した後、帰国して1年間工業デザイン事務所で経験を積み、その後、より中国に近づくため日本のノペルティギルト商社で約3年半働きました。
しかし、日本に帰ったのは実務経験を積む目的だけで、常に眼は海外へと向いていました。実際に中国行きを決意したとき、すでに中国は高度経済成長の真っ只中。インドとベトナムも候補に挙がったのですが、国土も広く人口も多い中国は、成長スパンも長いし、文化的にも馴染み易い。そしてやはり中国へ渡ることにしたのです。
―― 中国へ渡るだけでも大変、さらに起業となる困難もおおかったと思いますが
田中:中国へ来てからの約1年間に、日系の広告企画会社でノペルティの生産管理の仕事をしながら、共に起業するパートナーを探し続けていました。何人かの中国人に会いましたが、友達に紹介された肖娜(ショウナ)(現:アクシス・クリエーション上海 取締役・総経理・COO)と一瞬にして意気投合。2004年の9月に出会い、2005年1月、前職の契約期間満了を機に「一緒に会社をつくろう!」ということになりました。実際には、肖に惚れ込んだ私が強引に口説き落としたのですが(笑)。設立準備は2005年の旧正月明けの2月に開始、そして2005年5月に会社を立ち上げました。
運命的な出会いを経て会社設立。二人三脚でビジネスに邁進
―― まさに運命的な出会いをされて起業にいたったわけですね。御社はどのようなビジネスを展開されているのですか?
田中:コンセプトはクリエイテイプに特化したオフショア開発サポートです。現在は主に日本の企業から建築設計、不動産販売、広告、ゲームアニメなどに関わる3次元CG(静止画・動画)の制作を受注しています。またウェブサイト制作、ノベルティ制作、中国ビジネスを検討している日本企業の進出支援なども事業の一環として行っています。肖との出会いもそうですが、仕事の広がりにおいても、人の縁を感じずにいられません。お客様との出会いを機会に、ビジネスのお手伝いが出来ればと考えています。
―― 中国で起業を成功させる秘訣は何でしょう?
田中:私が肖に出会ったように、「いかに信頼できるパートナーを見つけるか」でしょう。さらに、ビジネスの方向性が一致した人と組むことが大切です。
弊社の例でいえば、日本のお客様の品質に対する要望がとても高く、中国人の制作者たちに受け入れてもらえないときがあります。その際も、肖がうまく彼らの誤解を解いて、納得して仕事を進めるようアシストしてくれます。私も日本のお客様と連絡を取り合い、仕事の進め方も常に改善していっています。そんな地道な努力で、日本のお客様との信頼関係の構築に繋がっていると実感しています。
―― 中国というと、日中関係の影響が気になりますが
田中:北京や天津などは、いわゆる”反日感情”を持っている場合も残念ながらあります。しかし上海は商業都市なので、ビジネス視点で日本を見ています。ですから、あまり日中関係の悪影響は感じないですね。上海での起業を考えたのも、活気があり、ビジネスを展開する土壤が整っているというのが大きいです。
日本人よ、小さくまとまるな!視野を広げ、ビジネスチャンスをつかめ。
―― 日本人は、もっとアジアをはじめ海外へ出たほうがいいと思うのですが?
田中:もう”出ないといけない”時期にきているでしょう。日本にいれば結局安泰、なんて考えはもう捨てるべきです。上海には、世界中から上海ドリームを求めて人が集まってきます。また中国は、女性が働きやすい環境が整っています。日本のキャリアウーマンの方々も、中国でビジネスをバリバリこなすようになって欲しいですね。
―― 田中様は、枠にはまらず、広い視野で物事を考えられている印象を強く受けます。
田中:母親の影響が強いと思います。母は私に、一切枠を設けずに育ててくれました。女の子だからこうしなさい、なんて言われたこともありません。いまでは、そのように育ててくれた母にとても感謝しています。
多国間の架け橋になることが、アクシス・クリエーションのミッション。
―― 最後に、御社の今後の展望をお聞かせください。
田中:弊社のミッションは、「多国間の架け橋」になること。日本の「ものづくりの心」を大切に、肖と二人三脚で、まずは日中のビジネスの可能性をさらに拓いていきます。そして、クリエイティブな分野を中心とした事業を通じて、アジアから欧米諸国まで、多国間の人々の交流を深めるお手伝いをしていきたいですね。